こんにちはユキドケです。
今回は、「なろう系と周辺コンテンツの歴史」という話をします。
パソコン通信コミュニティ時代 1980年代
パソコン通信は現在のインターネットとは違い、会員登録した特定のホストサーバーと通信回線でデータをやりとりする、限定されたコミュニティを作るサービスでした。
ホストサーバーにつないだ会員たちは、電子メールや掲示板などの機能を使うことができました。
1981年元旦に「マイコンセンター」上に投稿された原田えりかの「シシャノミルユメ」が日本初のオンライン連載小説だといわれています。
「ライトノベル」という名称はこの頃にSFファンタジー・フォーラムで生まれたとされています。
「ニフティサーブ」では会員同士がフォーラムというコミュニティを作り、その中で様々なやりとりをしていました。
中には小説を投稿するフォーラムもあり、これにより一般人が主導でのやり取りが生まれる様になります。
この「ニフティサーブ」を用いて『富士通Habitat』という画像を用いたアバターチャットシステムが誕生。
このアバターチャットシステムが後のMORPG、MMORPGへと繋がっていきます。
また、TRPGのプレイ記録を書き残すリプレイ文化も誕生していきます。
このTRPGは当時のドラクエなどと共に「ファンタジーブーム」を作ります。
ペプシコーラのサイト上に冒頭部分だけ書いたペプシマンを主役にした小説を投稿。
続き(短編)を読者がメールで書いて投稿すると優秀作をいくつか掲載。
さらに続きも募って投稿作から選ぶ……というストーリー分岐型のリレー小説形態が出来た。
これによりネットのリンクを利用した分岐型の物語作成が注目されました。
後にゲームブック風に書籍化もされました。
また、小説の進化という意味では1992年にサウンドノベルという形式で『弟切草』が発売されました。
従来の小説にサウンド、イラストが付き選択肢によりプレイヤーが物語に介入できるという事で注目を集めました。
その後、このサウンドノベル形式が恋愛ゲームの世界で流行しLeafの『To Heart』『WHITE ALBUM』、keyの『Kanon』『AIR』といった葉鍵ブームが発生して恋愛ゲーム市場が盛り上がっていきました。
インターネット時代 1995年~
1995年に発売された OS「Windows 95」がきっかけで個人でのインターネット接続が普及。
当時のネットはダイヤルアップ接続であり、通信容量も限定されていました。
そんな中で流行るのがテレホーダイです。
深夜から早朝の使用率が減るタイミングだけ定額でつなぎ放題になりこちらもインターネットの拡大に大きく関わっています。
そんな中で当時、冷たい目で見られていたオタク達が交流の場を求めて秋葉原やネットを目指すようになります。
パソコン通信からの流れもありますが、ネットは“おたく”たちが趣味について交流・公開する場にもなっていきました。
1996年、そんな中インターネット上での会員制掲示板サービス「みゆきネット」が誕生します。
インターネット上では多くの“二次創作”が書かれはじめました。
この時は、まだパソコンの性能が低く、通信費が高い為文字が表現の主流であり、二次創作も小説媒体で作られていました。
これにより同人誌以外でのファン・フィクションの公開・交流の場が形成されていきます。
二次創作で流行っていたのは
アニメや漫画で流行していた『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦艦ナデシコ』『GS美神 極楽大作戦!!』
サウンドノベル、ビジュアルノベル系からLeafの『To Heart』、keyの『kanon』などのいわゆる葉鍵系恋愛ゲームの二次創作が流行していきました。
現代まで続くテンプレ手法の基礎が出来たのはこの頃だといわれてます。
代表例を2つ出します。
この作品は、社会現象になる程ヒットしたのですが、原作のラストが悲惨で非常にモヤモヤした気持ちのまま終わります。
ここに対して二次創作の世界では
「このバッドエンドを回避してヒロイン達を助けよう。」
という人たちが現れます。
ですが原作の敵が強い為、主人公「碇シンジ」を成長もしくは強化するストーリーや設定の追加が必要でした。
ということで「主人公改変」行為を行い強化したシンジ君
スーパーシンジ(通称:スパシン)が登場します。
また、別方向からのアプローチとしてバッドエンド後に何かの力で時間を遡る「逆行物」も誕生しました。
前回の記憶を元に行動を最適化してハッピーエンドを目指します。
その後、逆行時に何か能力を得る「逆行ボーナス物」が誕生していきます。
しかし、スパシン化が流行して先鋭作品が増えてくると元々のシンジ君の面影が無くなっていき問題化します。
余りに原作と違う行動を取りすぎてしまうと違和感が出てくる訳ですね。
そこで誕生するのが「憑依物」です。
現実世界から別の人間を憑依させる事で本来シンジ君がしないような行動を取らせても別人として納得してもらえます。
『Kanon』
次の作品はkey作品のKanonです。
こちらは、恋愛ゲームの中でも「泣きゲー」として有名です。
そんなKanonですが、ネット上で「Kanon問題」という問題提起が起こりました。
Kanonのヒロイン達は、最初それぞれ非常に大きな問題を抱えています。
本来の流れでは、その問題を主人公と一緒に立ち向かう事で絆を深め奇跡の力によって解決します。
で、ここで絆を深めていくヒロインは救われるのですが他のヒロイン達は問題の解決ができません。
ちなみにヒロインの問題は、主人公と密接に関わっているので他の人では主人公の代わりになることもできないのです。
二次創作の世界ではこちらの問題への回答を探す作品が発生しました。
そこで出てきた解決策が「ハーレム」です。
決められた期間内で主人公が頑張って全員の問題を解決していきます。
で、その後主人公が難聴系になったり鈍感系になったりしてつかず離れず。
もしくは、どうにか法律を変えてハーレムのまま終わる。
みたいな感じになっていきます。
こんな感じでテンプレ手法が発展していった訳です。
その後『新世紀エヴァンゲリオン』の二次創作「錬金術師ゲンドウ」が『福音の少年 Good News Boy ~錬金術師の息子~』
という一次創作に変えて出版されます。
他にも色々な作品が一次創作化して出版しました。
98年10月から奈須きのこが同人サークル「竹箒」のサイト上に連載した『空の境界式』も後に『空の境界』として出版されます。
ブロードバンドと個人サイト時代 2000年初頭~
90年代終盤から2000年初頭にかけて、インターネット接続はブロードバンドになっていき、通信環境が整っていきました。
1999年には、掲示板サービスみゆきネットが終了してそれと入れ替わるようにして、巨大掲示板サービス「2ちゃんねる」がスタートします。
当時は2ちゃんねるも創作の場でした。
有名なのは2004年の『電車男』です。
「やる夫」というキャラを主人公に、アスキーアートを用いて書かれる「やる夫スレ」もブームとなり『ゴブリンスレイヤー』が出てきます。
『まおゆう魔王勇者』も代表作です。
Arcadiaが2000年に小説検索サイトとしてスタート後に投稿サイト化して作品投稿が容易になりました。
ユーザーからの反応が早くまた素直なものが来るので辛かったり嬉しかったり作り手側のモチベーションへ大きく影響がありました。
2004年4月には「小説家になろう」が開設される。
初めは「ケータイ小説」的な恋愛小説が多かったようです。
当時の「小説家になろう」は個人サイトであり、2008年にグループ運営化、2010年に法人化していきます。
この頃になるとWEB小説界隈は「個人サイト」「投稿サイト・投稿掲示板」「匿名掲示板」の3つに分かれていきます。
「個人サイト」は相互リンクを張ったり、ウェブリングに登録したり、小説検索サイトへの登録で間口を広げていました。
ネットの文字書きから恋愛ゲームのシナリオライターへ起用され、そしてラノベも手がけるようになるという作家は2000年代には多く見られました。
『雨の日に生まれたレイン』『ソードアート・オンライン』など後の名作が生まれ始めます。
この頃に流行っていた二次創作作品は『Fateシリーズ』『魔法少女リリカルなのは』『魔法先生ネギま』『ゼロの使い魔』などです。
特にヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』を元とした作品が多く書かれていました。
剣と魔法の中世
主人公(特殊能力有)の異世界召喚
貴族やエルフや魔物
ヒロインたちとのハーレム展開
学園物
未発達な科学
など後の「異世界転生系」世界観の元になっている事が分かります。
召喚される主人公を別作品のキャラクターに変えた「クロスオーバー物」が出てきます。
時代が進むとモンスター等を召喚する「人外召喚」やキャラクターに追加で能力を与える「能力召喚」みたいな物も出てきます。
しかし、召喚されてしまうと召喚者のストーリーを原作通りなぞる必要が出てきます。
ここで出てくるのが「サブキャラ憑依」になります。
憑依対象を変える事で様々なストーリーが生まれていきます。
しかし、それでもサブキャラの持っているストーリーや背景は変えられません。
次に出るのが「異世界転生(赤ちゃん憑依)」です。
まだ、何のしがらみも無い赤ん坊の時点で憑依する事で自由に異世界の話を作れます。
異世界転生が始まったことにより自由にストーリーを作ることが出来ました。
ですが、世界観に合わない事は出来ません。
現実世界の知識で無双する事は出来ますがいきなり現代兵器を持ち出して無双するのはまだ難しいです。
現代と中世ヨーロッパでは技術力が違いすぎるからですね。
そこで出てくるのが「神様転生」です。
転生時に神様に能力を貰います。
この時に授かる能力によって剣と魔法の中世にそぐわない「戦車量産」みたいな事がすぐに出来る様になります。
また、異世界召喚の所であった「能力召喚」みたいに別世界の異能をそのまま習得する事もできます。
この時代の二次創作はここら辺にして当時の時代背景に戻ります。
2000年8月に設立された株式会社アルファポリスは、インターネット上で人気のある作品を書籍化することを事業の主として始まりました。
ケータイ小説で言えばYoshiの『Deep Love』のヒットを始めとした作品のヒットが2002年~2005年頃にあり、美嘉の『恋空』も出ます。
『魔法のiらんど』に小説投稿のサービスが実装されて市川たくじ氏の『Separation〜きみが還る場所』などが出てきます。
女性にも二次創作ブームがあり『テニスの王子様』が非常に人気でした。
2004年に誕生した会員制コミュニティ「mixi」がSNS という概念を、世に知らしめました。
この流れで「E★エブリスタ」(エブリスタ)が誕生。元はモバゲータウン(DeNA)の小説コーナーとしてスタート。
2010年にNTTドコモとの共同出資企業として設立。
初期は『王様ゲーム』や『通学』シリーズといったケータイ小説が人気になります。
『サバンナゲーム』のようなデスゲーム。
『奴隷区 僕と23人の奴隷』のようなバイオレンス。
化け物から逃げるホラーの『カラダ探し』などが流行りました。
2007年、Apple から「iPhone」が発売され、携帯電話そのものの概念が大きく変わります。
『まおゆう魔王勇者』『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』といった、Web上で展開されていた作品が世に出始めたことで、オリジナルWeb小説へ注目が集まりはじめます。
この辺りで「MMORPG」+「ダイブ」物が注目されました。
これによりMMORPG側の文化がネット小説へ入っていきます。
なろう一時創作時代 2010
2010年「小説家になろう」に「にじファン」という二次創作特化の分野が出来ました。
当時は、この「にじファン」がなろうのメインでした。
2010年代前半頃には乙女ゲーム世界などを舞台とした「悪役令嬢」ものがジャンルとして成立してきました。
ガラケーからスマホに移行する際に「ケータイ専用サイト」が衰退していきその一部がなろうに移住、定住していったと言われています。
この際に元々なろうであったバッドエンド回避物の流れと合流して誕生したと思われます。
この道の先駆者的作品は『謙虚、堅実をモットーに生きております!』ですね。
この後『悪役令嬢』系が普及していきます。
他に女性主人公作品では『聖女』系もジャンルになっていきます。
2011年。東北大震災を機に、Arcadiaの管理人さんがサイト管理をされなくなり更新停止になりました。
Arcadiaで書いていた作者が「なろう」に移っていったのですが翌年2012年に「にじファン」が終了して巨大な二次創作投稿サイトが無くなります。
これを機に二次創作から一次創作に主戦場が移っていきます。
アルファポリスは異世界転生・転移系のファンタジー作品でヒット作を出していました。
『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』ヒットのヒット。
なろう」からの作品も増え女性向け『リセット』もヒットします。
2011年には『白の皇国物語』『シーカー』など、異世界ものが書籍化していきます。
エンターブレイン(KADOKAWA)は『ログ・ホライズン』に続いてWeb小説に注目。『オーバーロード』を書籍化します。
Twitterからはサイバーパンク・ニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』を書籍化。
『異世界迷宮でハーレムを』『理想のヒモ生活』『ナイツ&マジック』など「小説家になろう」ランキング上位作品を書籍化していきます。
書籍化が増えたことで従来の新人賞への応募だけでなくなろうへの投稿から小説家を目指す人が増えていきます。
2012年なろうで『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』が人気になりました。
なろうのパイオニアといわれる位代表的な作品です。
34歳無職の男性が異世界転生して魔術師として活躍する作品として作っているのですが
物語の主軸は
家族、人間関係、努力を通した34歳無職時代のトラウマ払拭と成長。
になっています。
この作品がヒットした事で、異世界での活躍を描くハイファンタジー物が増えました。
この頃、『異世界居酒屋「のぶ」』が始まり翌年の2013年に『異世界食堂』が誕生。
グルメ系作品が出てきます。
2013年なろうで『転生したらスライムだった件』が人気になりました。
同時に「人外転生」系が注目されます。
装備や自販機といった無機物への転生、魔王系も出てきます。
魔王系はモンスター転生から魔王のパターンや初めから魔王として転生(人型もいる)など色々あります。
(タイトルに魔王とつかない場合もあるので見分けるのは大変かも)
また、モンスター転生物のオバロ、転スラ、蜘蛛は世界を巻き込んだ戦争が入ってきます。
その際に一般人の主人公は戦略を考えることが必要になる訳ですが、その取り入れ方が作品により変化していきます。
オバロの場合、優秀な配下デミウルゴスが何とかします。
転スラは、優秀なスキル大賢者が何とかします。
蜘蛛の場合は、途中で世界の真実に気づきその後、部下の小グモを世界中に放ち情報チートします。
ただの一般人が国家レベルの戦略を知っているのは違和感がある訳ですが、こういったチートにより解決されました。
また、この転スラが流行った2013年は同時に『艦隊これくしょん』がヒットして擬人化ブームも発生します。
2013年7月にフロンティアワークスが「アリアンローズ」を創刊。
8月にフロンティアワークスとメディアファクトリーで共同事業として「MFブックス」が創刊。
『盾の勇者の成り上がり』『フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~』『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』『八男って、それはないでしょう!』『魔導師は平凡を望む』などを書籍化します。
2012年『ソードアート・オンライン』2013年『ログ・ホライズン』2015年『オーバーロード』がアニメ化されました。
この3作品はいずれもゲーム世界をテーマにした作品でした。
異世界アニメと追放物時代 2016
KADOKAWAと株式会社はてなが共同開した「カクヨム」が2015年末からプレオープンし、2016年2月末日から正式オープンしました。
異世界ファンタジーに寄り過ぎないような書籍化ラインナップにしていて
『おにぎりスタッバー』『スーパーカブ』『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』『黄昏のブッシャリオン』『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』『ひげを剃る。そして女子高生を拾う』
などが書籍化しています。
2016年『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』のアニメも大ヒットでした。
この2つに関しては当時のテンプレを無視した作りをしていました。
2016年9月から「小説家になろう」内での“ダイジェスト化”が禁止
当時は、書籍化する際に「小説家になろう」内の作品をダイジェスト化して書籍へ誘導するのが主流でした。
2016年に「小説家になろう」のランキングで異世界へ行く作品がそれ以外と分離されました。
これを受けて『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』が誕生。
メインコンテンツが「異世界転移・転生」から「追放物」へ移っていきます。
これまでは、異世界転移転生する際に能力付与をしてきました。
ですが、その2つが別ジャンルになった事で別の方法で能力付与していく事になります。
その方法が「協会での付与」です。
良くあるのは付与される年齢が決まっていてその時期に協会で儀式をしてもらい能力を授かります。
ここからは流行り出す「追放物」「現地転生」「逆行」について見ていきます。
「追放物」について
①最初のシーンでパーティーや家から追放されます。
②追放先で主人公が実は有能であることが分かってきます。
③王族などの権威者から評価を受けます。
④追放者から戻ってこいといわれ断ります。
⑤追放者が衰退。ざまぁ。
こんな感じです。
「現地転生」について
①勇者、剣聖、賢者、聖女、魔王など実力者が死にます。
②生まれ変わった際に前世の実力や記憶を引き継いでいます。
③実力者として大活躍。
こんな感じです。
「逆行」について
①努力等をせずに時間を過ごしていきます。
②後悔した未来の自分が過去に戻ります。
②後悔した未来の自分が過去に情報を届けます。
③努力をして未来を変えていきます。
こんな感じです。
この3つが流行り、悪役令嬢系と混ざったりしながら作品ができていきます。
この後、恋愛系が流行り増えていきます。